数々の試聴を重ね、概ねスピーカーの方向性が定まってきたある日、本屋に訪れた私はいつものようにオーディオ雑誌コーナーで立ち読みでもしようかと棚を見ていましたら、そこで一冊の本を見つけます
「SPEAKER BOOK 2017」
手に取ってみますと、様々なスピーカーブランドの商品を金額順に挙げ商品説明をギッシリ記した内容。成程これまでスピーカー専門誌なんて読んだことがありませんでしたから、これは有益な本だと買うことにしました。
家に帰って早速、パラパラと読んでみます。そしてその127ページ目。このページを読んだがために、当初予算など粉微塵に吹っ飛ぶことになるわけです。
そこに記されたスピーカー、それが
でした。
それは大変変わったカタチをしています。普通このクラスのフロアスタンディングのスピーカーならツイーター1つにウーファーが2つか3つ並ぶのが定石です。しかし、どこにもウーファーが見当たらない。
そして何より小さい。幅170mm、高さ929mm、奥行228mmは望外の小ささです。そう「小さい」というのは私にとって大変重要です。対配偶者戦略として、重厚長大なスピーカーは極めて好ましくありません(その辺がベートーヴェンを躊躇した理由でもあります)
さて説明文を読み進めると、オーストリアはウィーンで製造されていること。元はベーゼンドルファーのスピーカーであったこと。ウーファーは側面につけられており、更にその前にサウンドボードと呼ばれる共鳴構造があることなどなど、私の興味を引くに十分すぎる内容が続き
最後に、トドメの一文
「80歳ほどの高齢な学者(製作者ハンス・ドイツ)にとって、モーツァルト、ベートーヴェン、リスト、ショパン…こそが音楽であり、ジャズやロックは氏の人生にはない」
……これは要するに、私の為のスピーカーではないか?
雑誌記載の内容では十分ではありません。ホームページでも様々情報を仕入れました。
http://www.brodmann.jp/index.html
概要を改めてまとめますと
音響エンジニアであるハンス・ドイツ氏が、仕事を通じて40年来の親交があったカラヤンからの勧めもあり、ピアノメーカー「ベーゼンドルファー」がスピーカー部門を立ち上げた際に、その設計を担当。一般的なスピーカー設計と全く異なる(バスレフやダンピングファクターを一切使用しない)設計で新たなスピーカーを生み出しますが、当のベーゼンドルファーが経営難に陥ってヤマハに買収される際、スピーカー部門はお払い箱となりました。切り離されたスピーカー部門はそのまま、中国資本のオーストリアピアノメーカー「ブロッドマン」へ移籍。
そこでベーゼンドルファー時代のそれを改良したスピーカー作成を再開させました。特許を取っている「ホーンレゾネーター」や独自のサウンドボードなど、色々理屈はありますが、一言で言えば、スピーカーをスピーカーではなく「楽器」とみなして設計している、と言えます。一般的なハイエンドスピーカーと真逆の思想ですね。
読めば読むほど、興味が湧きます。これは一度聴いてみたい。なんとしても聴いてみたい。
ホームページには取扱店が挙げられており、大阪でも2店舗がありました。私はすぐにその2店に連絡してみましたが極めて残念ながら、両店とも現在試聴機はないとのこと。というか、殆どそのスピーカーの存在を知らない様子。
困った。どうにもならない。
まさかスピーカーの試聴のために東京に行くわけにもいかない。どうしたものか。
悶々とするなか、ある日、私はオーディオ誌の広告ページで、捨て置けない情報を見つけます。
「大阪ハイエンドオーディオショウ2017 開催」
そしてその参加店リストの中には、BRODMANNの輸入代理店フューレンコーディネートの名前が。これは行かねばなりません。万難を排し、私は当日、仕事を早々に切り上げ大阪心斎橋に乗り込むのでした。
…ハイエンドオーディオの歴史がまた1ページ