というものについて。
日本人は一般的に「機械」や「物」に対して、「完璧」を求めます。
「機械として正しく作動する」という意味での「完璧」ならその欲求は
まぁ当然ですが、私が理解し難いのは「完璧」が「何も手入れせずとも永続する」ことを望むというか、そうあるべきだと思い込んでいるというか、信じている傾向が強いのが信じられない。
例えば、家を売ってて、よくある質問なんですが
「外壁や屋根はメンテフリーなんですか?」
…んなわけないだろう。色落ちもすりゃガタも来ますよそりゃ。
家の屋根ってのはですね、最も過酷な環境に晒されるわけですよ。夏場強烈な直射日光にまともに晒され、そうかと思えば雨に濡れまくり、酷い場合は雪の超絶な重みに耐え忍ぶわけですよ。そしてそれを何十年と続けるんですよ。メンテフリーなわけないだろう。
色くらい落ちるっつーねん。(昔のそれに比べれば格段に良くなってますよ、10年くらい平気へっちゃら。でも「永続」は不可能)
これがね「メンテの周期はどのくらいですか?」とか「費用は?」なら当然の質問ですが「何も手入れしなくていいんですよね?」という質問をしてしまう発想が信じられない。
人間の作ったモノ、いやこの世にある全てのモノに「永遠」なんて有り得ないんです。壊れて当然。劣化して当然です。
そりゃ寿命が長くなるよう技術者さんたちは血ヘド吐きながら開発してますよ。でも無理なものは無理。物の理に反しますから。
また、よく住宅専門誌なんかで日本の家とヨーロッパの家を比較してですね。向うの方が圧倒的に耐用年数長いわけですが、それを指して日本の家は劣ってるとかバカなことを書くわけですよ。ホント脳ミソ入ってるんでしょうか?
日本とヨーロッパじゃ環境も全く違うし、使い方も全然違うんですよ。
例えるなら、2004年のF1マシンと2005年のF1マシンを比較して、2004年の車は長距離走れないから劣ってる、と言うのと同じくらいのバカさ加減です。
ヨーロッパ。地震ありますか?ないですよ基本的に。湿度はどうですか?圧倒的に低いですね。気温は?これも低い。使い方は?向うはメンテしますよそーゆー文化ですから。
…日本という国は、高温多湿で地震だらけ。建築物にとってこーゆー条件は悲惨極まりない。そしてメンテを嫌う国民性。しかも戦後の経済発展で生活スタイルも全部変わって建替えばかり。更に家族形態も様変わりで以前の家の形態は成り立たずに建替えばかり。
全ての要因が「家の寿命」を縮める方向に一致してるわけです。長くなるわけが無い。
そーゆーちょっと考えれば誰にでも分かるような前提条件の違いを全部すっ飛ばして日本の家は欧州より劣るから輸入住宅が優れてるとか、メンテフリーだとかバカなことばかり書くヒョーロン家が作ってる住宅専門誌なんて脳ミソ腐りますから読まないでください。
ていうか、そんなバカな記事をそもそも信じるな。
…と、声を大にして客に言ってやりたい。
無論、住宅の専門知識がなきゃ分からない事であればそんなこと言いませんよ。幾らでも質問してください。それに答えるのが我々の仕事ですから。
でも「メンテは必要か?」だとか、そーゆーことは専門知識じゃなく「常識」でしょう。
以前、姉歯ヒューザー問題の際に書いたことを再度振り返ります。
―どんな物にも仕組みがあります。安いものは安いなりに、高いものは高いなりにそれなりの理由があるわけです。安くて、広くて、豪華で安心なんていう、パーフェクトジオングのような物は絶対にありません―
これも「常識」です。当たり前のことです。家だろうが車だろうが家具だろうが家電だろうが服だろうが飯だろうが酒だろうが時計だろうが、全部そう。全て。何もかもがそうなんです。
私がこの仕事をしていて本当にげんなりする、虚脱感に見舞われるのは
そーゆー常識を理解できない人に遭遇する瞬間です。
何もメンテの問題だけじゃなくてね。常識とかけ離れたことを言われる瞬間です。そしてそれが多すぎる。20代30代の若い人ならまだ許せますよ。
しかし40、50ヘタすりゃ60代のオッサンにそーゆーことを言われますと、この人は一体何を考え感じ半世紀も生きてきたのか?と真剣に不思議に思いますし、自分の親以上に歳を食った人間相手に、そーゆーことを、不快にさせないようにおだてて、頷いて、噛み砕いて教えなきゃいけないのが心底馬鹿馬鹿しくて仕方が無い。
メンテナンス。
人間も同じです。ほっときゃガタが来ます。病気になります。ヘタすりゃ死にますね。脳ミソも同じです。ほっときゃどんどんバカになります。
物に無条件に完璧を求める前に、まず自分をちゃんとお手入れしましょう、というお話。