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先日に引き続き

レクサスのお話です。
私も、知らず知らずに思い込んでいた錯覚のお話。

所謂「プレミアムカー」と呼ばれるブランド達、メルセデス、BMW、アウディ
ジャガーなどなどが覇を競う高級車市場というものに、今回レクサスが挑んだわけ
ですが、それに際して不思議な事に「参入する」というだけで、どのメディアも
「メルセデスに勝てるのか?」「BMWに勝るのか?」
という姿勢で騒ぎ立てました。
そして我々も、知らず知らず欧州勢と「対等な存在」としてレクサスを認知し、そして
期待し先入観を抱いたわけです。これは無論、巧みなトヨタの戦略でもあるのですが。

しかしこれは大きな錯覚であると言わざるを得ません。

というも、これが例えば
F1の世界だったらどうでしょう?

トヨタは2002年からF1で走り出しましたが
参戦初年度にトヨタが勝てるなどと考えた楽天家は、全くF1を知らない者だけでした。
いきなり
「フェラーリに勝てるのか?」「マクラーレンに、ウィリアムズに勝てるのか?」
などと馬鹿なことを言った人間は居なかったはずです。
それどころか「5年でワールドチャンプ」と言ったトヨタの、トヨタとしては控えめな
「勝利宣言」さえも笑殺されたはずです。(まぁ5年目の今年は結構行けそうですが)
何故ならば、F1はそんなに甘い世界ではないからです。
F1の開闢から連綿と戦い続けるフェラーリは別格にしても、マクラーレンにしても
ウィリアムズにしても、ルノーにしてもBMW、メルセデス、そしてホンダにしても
最低でも30年近くF1の世界と関り、そして名門、トップチームとなったわけで、
いくら金を掛けようが数年で戴冠を果たせるほどF1は浅くありません。

それと同様に、高級車市場という物は、甘くも浅くもないわけです。

例えばメルセデス。自動車の発明者を創業者に、その後100年。自動車の歴史は
即ちメルセデスの歴史です。
アウディ。戦前ドイツが誇る、メルセデスに比肩する自動車会社連合アウトウニオン
に端を発し、戦後はドイツ最大のメーカーVWと共に歩んだ名門です。
そしてBMW、上記二社に比べれば歴史は浅いものの、メルセデスの超克を志し、
独自の哲学で高級車を作り続けてきました。
つまり、高級車市場とは、欧州の自動車文化のエッセンスなわけでして、これは
F1か、或いはそれ以上に深く、厳しい世界なわけです。

つまり、参入してすぐに勝てるようなものではありません。
これから長い時間をかけていくしかないわけです。

この余りにも自明ながら、しかし、トヨタの見事なメディア戦略によって誤認させら
れた錯覚に気付き、私はレクサスの評価を先送りにしました。
今はまだ、判断を下すには早い、と。

ただ確実に言えることは、レクサスは、少なくともその舞台に登れる車だと言う事
です。踊りきれるか、そして主役を張れるかはまだ分かりませんが、舞台に登る資格
があるということは、素晴らしいことです。レクサスの技術者達は、本当にいい仕事
をしました。これは実物を見、乗れば分かるでしょう。確実に今までの日本車からブ
レイクスルーできた車です。
ただし、ここからは大変です。今までは例えばBMW3とアルテッツァ、5とアリスト
を比較しても、値段が軽く200万違ったわけですから、差があっても
「金額が違うから」というエクスキューズができたわけですからね。しかしこれから
は違います。同じ価格帯で戦うからには、免罪符は何もありません。
だからこそ、本当の競争が生まれますし、本物の車が生まれるのです。
その舞台に立てたこと、そして立つ勇気は、賞賛に値するでしょう。
ただし、もう一度繰り返しますが、欧州の車達は軽く半世紀、その舞台で戦い続けた
車達なのです。

先日と同じ結びにはなりますが
レクサスの今後に、期待する事にしましょう。


追記

以前、レクサスを買う人間は馬鹿だと書きました。
今でもその感想は変わりません。ただ、正真正銘馬鹿なユーザーともう一つ
「未完成」を承知で、今後のレクサスのための投資という形で購入する、剛毅な
馬鹿の何れかだと思います。
どんなに将来に可能性があっても、今売れないことには開発もできませんからね。
そういった人たちに支えられれば、レクサスは間違いなく本物になっていくことで
しょう。

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