前回は、スポーツカーはGTカーとは違う。
スポーツカーはカッコと運動性命。
快適性なんてモノは厳密にはGTカーの領分だ。というお話でした。
また多くのスポーツカーは、マーケティングに魂を引き摺られてると。
結果、例によってロードスター絶賛だったわけですが、マーケティンによる弊害の更なる具体例をば。
先日、そのロードスターについてニュースがありました。
「電動ハードトップが加わる」というものです。
クーペではなく、電動ハードトップ。幌を硬い屋根にすると。
第一報を聞いた時、唸りました。何てこったと。もしこれがベンツSLK
やプジョー206ccのような重い屋根なら、もうロードスターは終わり
です。しかし、ロードスターの屋根はFRP製でした。
私は、ロードスター開発主査はじめエンジニアの心中を思い、もう一度
唸りました。
私は、スポーツカーは軽さが命と書きました。軽さが命のロードスターの、しかもよりにもよって、車の構成で最も高い位置にある屋根がもし重い金属製ともなれば、重心高くなるは重量増すは、もう最悪なわけです。
無論、クーペなら問題ないんです。モノコックとして基本から考えられたクーペであれば、重さを差し引いても、剛性がオープン時と比べ段違いに上がりますから全体的な運動性能は差し引きゼロか、寧ろプラスです。
しかし剛性に寄与しないハードトップでそれがクソ重いとなれば、もうダメ。運動性にとってはいいとこ無し。皆無。寧ろマイナス。
しかし、採用されたのはFRP製ルーフ。諸々の装置含めて極限に軽量化しての37kg増。しかも屋根の収納スペースを、後席とトランクルームの間に取る事でトランクスペースを確保しつつ、可能な限り重量物を中心に据えて重量配分にも配慮。剛性確保の補強も入れ、重量増加を考慮してサスセッティングの見直しも行い、更にルーフの開閉速度は12秒と世界最速(!!)
…もう、これはもう涙ナシには語れません。
インタビュー読んでると
「電動ハードトップなんてホントはやりたかない」
という思いがにじみ出てます。
しかしながら、世の中が、マーケティング結果がそれを認めません。
幌なんてイヤ。硬い屋根が欲しい。でも完全クローズドはイヤ、オープンにもしたい。荷物も積みたい。あとロードスターって人馬一体っていうよね?
もう無茶苦茶な要望。出来るかそんなもん。私ならちゃぶ台引っくり返しつつ大リーグボールを大暴投です(イミフメ
しかし、彼らはそれをやり遂げました。
ぶっちゃけ、私を含めて一般人なんか、適当な屋根つけても、重量増えて
運動性落ちても気付きもしないハズです。分かりゃしませんよそんなもの。比較試乗でもしない限り。
しかし、しかしです。そこで妥協したら、エンジニアとして死ぬわけですよ。ロードスターが死ぬわけです。だからやるからには最善を極める。魂込める。プロですね。本当のプロの仕事です。
よく、バブル崩壊後、ボロボロになったマツダが何故ここまで復活できたのかというお話がありますが、要するに、こういうことの積み重ねがその理由だと思います。
「売れる車がいい車」という、マーケティング命の自動車業界において
「いい車は売れる」というアンチテーゼを
「これが俺達の考えるスポーツカーだ」という明確なメッセージを示す、数少ないメーカーの一つですね。
そしてそれは、何れブランドになります。金メッキのブランドではなく、本当の本物のブランドに。そうなった時、マツダは世界に冠たるメーカーになることでしょう。
また是非、そうなって欲しいものです。
永富潤 2006年07月29日(土)13時55分 編集・削除
ロードスターに電動ハードトップが出る、
という情報は例によってここで初めて知りました。
マツダ開発陣の熱さを垣間見るようで
微笑ましいですね。
こういう話を聞くとマツダはいいメーカーだと
感じますが、おそらくそれは私の目から見て
「メーカーが作りたくて作っている、
そして作ったものが市場に受け容れられている」という
メーカーと顧客の非常に好ましい関係が
見て取れるからでしょうね。
まぁ利益を得るためのマーケティングは
実際成果を出しているわけで
それを非難するのは筋違いですが、
そんなものに拠らず
「作り手が本当に喜んで作ってるな」
と感じられる商品は
いい悪いを超えて“愛されるものになる”のでは
と思います。
(これが必ずしも利益に直結しないのが
世間の世知辛いところではありますが)