まだ子供の時分に家の近くの家電量販店で聴いたピュアオーディオの音。今思えば大した代物ではなかったはずですが、ただ、私の中に「何か」を残したのは確かでした。
それから約20数年。
まともなシステムを組んだことがない人間が、いきなり一式揃えるのは無謀なような気もしますが、賽は投げられました。あとは祈るのみです。
年が改まった1月16日(火)ついに、納品の日がやってきました。
ド平日ではありますが、私は万難を排して振替休日を取得し、朝から掃除を敢行。来訪に備えます。思いのほか早く片付き手持無沙汰。ふと、最後にBOSEを鳴らしてやろうと思い立ちました。さて何を聴こうか。
最後ですから、フルトヴェングラーのブラームス1番4楽章(1945年1月23日)と、やはりブルックナー7番2楽章でしょう。鳴り始めるのとBOSE=AWMのいつもの音。Luxman D-05uの力を借りて音が鮮明にはなってますが、基本的にこの15年の間、ずっと聴いてきたいつもの音です。今まで本当に有難うございました。また、いつか鳴らしてやろう。
さて本当にちょうど、ブルックナーが鳴り終わるや否や、インターホンが鳴ってお出迎え。店長さんと、そしてフューレンの担当さんが来られました。なんという有言実行。
エレベーターの無い4階という最悪のロケーションの中で、アンプとスピーカーの搬入頂き、手際よく梱包が解かれていきます。恐ろしく美しいピアノブラックの鏡面塗装。
今回は導入にあたり、アンプ、スピーカーを繋ぐ各コード類は全てお任せにしました。ケーブル、電源など「アクセサリー系」は大変深淵な世界が広がりますので、私のようにハイエンドオーディオの黄昏をおっかなびっくり歩いている人間にはまだ業が深すぎます。プロに任せるのが吉。
そうこう言う間に各種配線は勿論、配置なども極めて手際よく完了し、取り敢えず音が出る環境が整いました。所謂「ポン付け」の状況です。ここからスピーカー位置などセッティングを詰めていく訳ですね。
気分はまるで湾岸ミッドナイト。悪魔のOCTAVE。いやドイツだからBlack Brodmannか。
…さてでは何を、最初に鳴らすべきか?
実は前から決めてました。バックハウスの弾くベートーヴェン。中でも私の好きなテンペストを置いて他にありません。何せこのスピーカーは元を正せばベーゼンドルファーです。
ベーゼンドルファー(のピアノで弾いた曲)をベーゼンドルファー(のスピーカー)で聴く。
これ以外、こけら落しに相応しい何がありましょうか。D-05uのトレイにCDを載せて再生スタート。
さぁ記念すべき最初の音色は如何に!
……なんじゃこりゃ?
なんという平板な音。響きも何もあったもんじゃない。
…正直、血の気が引きましたね。
こんなものかと。これじゃハイドン(風雲篇参照)のほうがまだ良いと。
が、すぐにある事を思い出しました。そもそもこれは真空管アンプです。通電後すぐの真空管と更にバイアス未調整とくりゃ、まともな音がする筈もない。事実、私以外のプロの2人は全く動揺するそぶりも見せない。そうまさしく、まだ慌てるような時間じゃない訳です。
しかし、プロは暖気の時間も無駄にしません。スピーカー位置を色々変えて行きます。その度に如実に変わる音。更に、BrodmannのVC1はウーファーが側面に一発ついているのですが、これは設置する空間にあわせてウーファーの向きを内か外か、適した向きに変えられる利点があります。今回、まず内向きに鳴らした訳ですが、これを外に変更したらかなり大幅に音の響きが変わります。こちらのほうがうちの部屋にはあってる模様。更に壁からの距離、スピーカー間の距離を厳密に詰めていきます。まさしくセッティング。
そして、そうこうするうちに、真空管が十分に温まってきます。そこで4本の真空管のバイアスを調整して頂きます。
…そう。この音です。これだよ!これですよ…!!
よかった。本当によかった。あやうくホントに「落日編」になる所でした。そんなオチは要らん。
セッティングが一段落し、労を労う為コーヒーを淹れて差し上げます。
色々お話する間も刻々と響きが良くなっていきます、が
「真空管の慣らしが終わるのは最短で3ヶ月」
「スピーカーは(特にBrodmannは)年単位」
という極めて気の長いご宣託を頂戴しました。
まぁこれから日々よくなると思えば。気長に付き合いましょう。
お礼を申し上げお二人をお見送り。部屋に戻ってその後もずっと色々掛けてみました。ピアノだけでなく、オルガン、ヴァイオリン、チェロ、協奏曲、交響曲などなど。音色は着々と良くなります。生気が出てくる。これまで聞こえなかった僅かな音も聞こえてきます。
あと映像ソフトも念のため確認してみるかと、ブルーレイに切り替え、響けユーフォニアムの関西大会を見てみました。まるで映画館で見るような音の質感です。また驚いたのは、京阪電車に乗ってるシーンでキャラクターがつり革を掴んだ時、つり革独特の「あの音」がちゃんと聞こえた点です。聞こえたスピーカーにも驚きましたが、わざわざそこまで音をサンプリングしてしっかり乗せてる京アニにも改めて驚いた。
もう機材は十二分に暖気されました。そろそろ一発、少し音量を上げて本領を発揮してもらいましょう。
比較するのは、私が以前素晴らしいと感じたDYNAUDIOのSP40で聴いた、ブルックナーの5番、第4楽章です。
鳴り始めてすぐ、音質の全くの違いに驚きます。SP40の精緻さと比べ、圧倒的に生っぽい。またSP40ではホールの若干後方で聴いている感覚でしたが、VC1ではもっとオーケストラの近くで聴いている感じです。
音場の広がり、定位とも文句なし。そしてとにかく音がリアルです。
そして最終のコーダ。アムステルダムコンセルトヘボウがヨッフムの棒にフルパワーで応えるクライマックス。もうこれはこの世の音楽ではありません。これを聴いて感動しない人間はブルックナーの何を聴いても無駄と断言できます。本当に素晴らしい。これ以上の5番は有り得ない。そう確信できる演奏。そしてそれをこの上なくリアルに再現するV70SEとVC1。流石にSP40では比較するに荷が重い。Confidence系なら或いは…
ただDYNAUDIOとBrodmannでは方向性が全く違いますから、比較はナンセンスかもしれません。
いずれにせよ私はBrodmannの音色の方を好みます。
…良かった。ちゃんと鳴ってくれました。
その後、帰宅してきた嫁の渋面をなだめすかす為に、彼女の好きなミスチルを掛けてみたところ、うちのリビングに桜井が現出し、改めてそのリアルさに驚いた次第。
誰だBrodmannはクラシック、しかもピアノ専用機とか言ったのは。超オールラウンダーじゃねぇか。
さて10回に及んだ今回のオーディオ導入記。
紆余曲折を経て最終的に
CD:LUXMAN D-05u
アンプ:OCTAVE V70SE
スピーカー:BRODMANN VC1
に最終決着しました。その結果は上記のとおりです。
ただ納入後2週間を経た今現在。更に音色のリアルさが増加しています。真空管の慣らし…もそうですが、プリ菅を、Telefunkenに変えた事も大きいですね。今回真空管アンプを選んだため「玉転がし」と俗に言われる真空管の交換による音質変化を楽しむ…という極めて業の深い世界に飛び込むことが可能になりました。
そう、ここからが本番、と言えなくもありません。
今回の様々な経験を経て、私もほんの少し、オーディオのことが分かってきましたから、これからも少しずつ変化を楽しみ、音楽を聴いていきたいと思います。
…また、気が向いたら「外伝」として続けるかもしれません。
ネタは、オカルト満載のアクセサリー業界や、ヴィンテージ真空管の世界でしょうかね。
s 2018年02月01日(木)07時54分 編集・削除
最近知ったんだけれどハイレゾ沼もアツいらしいね。
外伝「人の可聴範囲外を砕くもの」よろしくお願いします。